雨と猫と珈琲と読書と

徒然なるままにパソコンに向かいて

お金にまつわる残酷さ

遠い子供の頃の記憶。

 

遠くに住んでいる伯母の家に母親に連れられて遊びに行った時のことだ。

伯母と母親が姉妹だったのだけれど、妹である母親は伯母より15歳も離れていたので、伯母の一人娘である私から見た従妹と私もかなり年が離れていた。

従妹は一人娘だったけれど、もし叔母が流産や死産でなければ、4番目の子供だった。伯母は3人亡くしていたのである。

当然やっとの思いで無事育ちつつある一人娘である従妹は、目に入れても痛くない存在だったのだろうと思う。伯母の家は決して裕福でなかったけれど幸せだったのだろう、と思う。

 

伯母の家の近くにとても裕福な一家がいた。

そのご家庭のお子さんは4人の男兄弟で、どうも母親にあたる奥さんは強く強く娘を希望していたらしい。娘が生まれていれば可愛いお洋服を着せてあげたい、色々連れて行ってあげたい、可愛い小物を用意してあげたい、と夢があったのだ、と思う。

 

ここから先の展開は予想がつかれると思うのだけど、従妹は人懐っこいうえにとても可愛らしい容姿であり、裕福な家庭の奥さんであるAさんに大変可愛がられた。

従妹も母親である伯母さんは昼間も働いていること、一人っ子で兄弟姉妹がいないこと、Aさんの息子さんたちも従妹を実の妹のように可愛がってくれていたことも手伝って、Aさんのことを2番目の母親のように慕っていた、のだと思う。

 

当時従妹とAさんの息子さんの下2人が、その時遊びにきていた私の遊び相手になってくれた。多分外で何某かの遊びをしたのだろう、喉が渇いて水を飲むために伯母の家へ向かった。狭い居間で伯母は俯きながら座り込んでいた。母親は何故かその時は伯母の家にいなかった。

「〇〇(従妹の名前)が取られちゃう…」

そっと耳に入り込んできた声。

 

ここから先の記憶は曖昧だけれど、多分当時の私は遠慮がちに、伯母さん?と声をかけたのだろうと思う。伯母さんは驚いてこちらに顔を向け、はじめて私の存在を認識したようだった。どうしたの?と聞かれたので素直に水をもらいにきたのだ、と答えた。伯母はコップに台所の水を汲んでくれて差し出してくれた。ジュースとかでなくてごめんね、といいながら。私は多分水を飲んでまた従妹たちと合流したように記憶している。

本当はその時、お手洗いも借りたかったけれど、Aさんのうちで借りようと子供心に決めていた。なぜなら伯母の家のお手洗いはぼっとん便所だったから。

 

おやつの時間になって、Aさんがおやつを食べていくよう声をかけにきてくれた。用意してくれたおやつは、沢山のフルーツの乗ったケーキとなんだか凄く美味しかったチョコレートとカルピスだったように記憶している。私はお手洗いを借り、今度は室内で遊んだあと、母親に連れられて自宅に帰路したのだった。

 

その時は1つのエピソードとして記憶の奥深くにしまわれていたのだけど、それから何年かしてふいに思い出し、そして私は気づいたのだ、伯母さんを傷つけていたものの正体に。

伯母さんも従妹も、AさんもAさんの息子さんたちも皆善良な人たちだった。でも確かにあの時あの場所で伯母さんは傷ついていたのだ。

 

子供のころの私にとって、善悪ははっきりしたものであって、良い人、悪い人がきっちり分かれているものだと思っていた。明確な悪意が存在しているのだと。

そしてこういった登場人物は全員良い人たちだけど、悪意は存在していないけれど、見えないところで傷ついている人というのは、きっと珍しい話ではなくて日常的に起こっている出来事なのだ、と思う。